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「バジリスク ~桜花忍法帖~」リレーインタビュー第5回
音楽 坂部剛

—音楽をオファーされた時、『バジリスク』という作品に対して抱いた印象から教えていただけますか?
坂部「自分はこの作品に合っているな」とは思いました。

—それはどういった点からでしょうか?
坂部以前、『仮面ライダーゴースト』の音楽をやらせていたたいだ時、「和」ではなかったんですが、オリエンタルなものが自分に合っていると思ったんです。和が持っている哀愁のような感じが好きですし、だからか(楽曲も)すぐ出てくるという意味でも。ただ、(西村純二)監督からは「和をそんなに意識しないでくれ」と言われてはいました。

—和を意識しすぎないというところでは、どのようにイメージを膨らませていきましたか?
坂部ストリングスが合っていると自分は思ったのでオーケストラ的な弦を、それから木管をメインに和楽器を散りばめていくという構成にしました。

—和楽器の要素としてはどのようなものを取り込みましたか?
坂部例えば、滑婆が空を飛ぶところや、甲賀八郎の瞳術の場面で笙を使っています。笙の音は、天から差し込む光を表すと言われているというのもあって、人間離れしているところを表現しました。実は、個人的にいい音だと思っていたので使ってみたくて、この機会に笙を買って練習しようとも思ったんです。結局時間がなく、買いもしないままでしたが(笑)。あとは、バトルのところで三味線や尺八を流したり、七斗鯨飲が死ぬところで渋い三味線が流れたり、それくらいですね。ストリングスの方がよっぽど多く使っています。あと、笛はよく使っていて、たとえフルートだとしてもすごく笛は和に合いますね。

—その他には監督とどのようなやりとりをされましたか? キャラクターについてやメニュー出しといった点で。
坂部いろいろとお話しましたが、立つところは立っていいけどあまりメロディは立たないでずっと静かに裏で流れているようなものを、とは最初に言われました。あと、キャラクターにつくテーマというものは今回作っていません。(音響監督の)横田(知加子)さんから、どの場面にあてる、どういうイメージの曲なのかが書いてあるメニュー表をいただく、という形だったんですが、編成的に厚めなのか薄めなのか、速いのか遅いのか、そういったところまで詳細に書かれていたのですごく作りやすかったですね。例えば、忠長の回想シーンですと、「家光を恨むきっかけ、無情な運命」といった感じで。

—どういった音楽か、というよりもどういったシーンであるか解説したメニュー出しですね。
坂部自分で想像することができるので、これはわかりやすかったですね。

—5話のラストで印象的だった「桜花」発生のシーンで使われた曲は、その名も「桜花」というタイトルとのことですが。
坂部「桜花」はメインテーマのひとつですが、もうひとつのメインテーマである「美しい桜」も同じメロディで作っています。なので、最初はこの2曲を想定するものをつなげて1曲を作り、「どうですか」という確認を取ってから二つに分けたんです。

—「桜花」と「美しい桜」はそれぞれ約3分の楽曲ですが、元は6分近い曲として作っていたのでしょうか?
坂部いえ、後ほど分けたときに拡大しました。元は3分くらいだったと思います。

—作るのに苦労された曲と聞いて思い出される曲は?
坂部最初に苦労したのは「想い人」という曲(1話にて八郎・響が川べりで話すシーン等で使用)です。どういう感じかなと作ってみては「違うな」と思って直して……。やっぱり捉えるまでが大変ですね。確信を持ってとりかかれるかどうかというところで。

—捉えるのが早かったシーンというのは?
坂部バトル曲は作りやすいですよね。『バジリスク』に限らず。

—ただ、『バジリスク』の場合、一筋縄ではいかないバトルが繰り広げられますよね。
坂部そこが難しいところですね。

—鯨飲と孔雀啄の戦いは特に、スピード感とは真逆の方向にある戦いでした。
坂部「次元を超越する」という曲で、孔雀啄の技の他に輪廻孫六の技にもつく。それは難しかったですね。もう一つ難しかったのが、草薙一馬の「天竪琴」という技につく曲で、天竪琴は一馬が死ぬ時に初めて綺麗な音を奏でるということだったんです。つまり、剣の音というか架空の楽器ということになるので、これはちょっと難しかったですね。しかも、天竪琴がうまく鳴らない音を単品でいくつか、というお願いもされたので。

—それはどうやって作ったんですか?
坂部たまたまシンセにサントゥールか何か、打弦楽器のうまく鳴らないような音が入っていたので、「これは使えるな」と思いました。いや、難しかったですね。架空の楽器がうまく鳴らないときの音、というのは(笑)。

—他にメイキングの裏話として何か印象に残っていることはありますか?
坂部そうですね、実は1話の冒頭だけはフィルムスコアリングで作曲しました。

—本能寺で襲われた信長のシーンですか?
坂部そうです。あとは、「鍛錬」という、子どもたちが次々と戦っていくところで流れた曲も秒数合わせで作りました。静かなリズムから始まり、メロディも特にないまま、ずっと四つ打ちのキックが鳴り続ける……という曲ですが、それこそ環境音みたいな曲が流れていてほしいという要望が一番できていた曲だと思います。

—自身の曲が使われているのを放映で見て、印象に残ったシーンはありますか?
坂部このシーンというよりも、(トラックを楽器ごとにまとめた)ステム(データ)の使い方がものすごく上手でした。会話の裏ではメロディを抜いて使っているとか、(セリフが)何もないところではメロディを出すとか。

—そういった使われ方になるということは聞いていたのでしょうか?
坂部聞いてはいませんでしたが、ステムはかなり細かくわけてほしいと言われていました。でも、予想外というか、(放映を)見て最初に思ったことは「ステムがすごいな」でした(笑)。かなりフレキシブルな感じで、音のことを大切に考えてやっていただいているという印象でした。

—さまざまなアニメや特撮、舞台で劇伴を手がけられていますが、今までの作品とは違う『桜花忍法帖』の曲の特徴というと?
坂部基本的にコメディ要素はない作品というところが一番違うのかな、と思います。なので一定の「品」を保った音になることをずっと意識していました。コメディっぽいシーンがあったとしても、コメディになりすぎないようにディレイを使うとか。涙と七弦が修行している場面で流れた「へろもん」という曲がそれです。

—確かに『桜花忍法帖』の中では唯一、コメディタッチのシーンと言えるかもしれません。
坂部基本的には「不穏」な曲ばかりですからね(笑)。不穏な曲を、手を変え品を変え、作っていきました。ただ、あえて振れ幅を抑えて作るということができたのは、自分としても良い経験でした。実際、作品にフォーカスした曲を作ることができたとは思います。

—視聴者がなかなか気づかないポイントというと、どんなことが挙げられますか?
坂部そうですね……。今回、自分で声を入れました。

—「声」ですか?
坂部歌を歌っているんです。成尋が登場するところで。

—自身で歌うことは多いのでしょうか?
坂部いや、ないです。成尋の不気味さを表す時に特徴が欲しいということで、確か横田さんから男性コーラスという話が出たんだと思います。その1曲のために何人もコーラスを呼ぶというのはちょっと贅沢ですよね。なので、自分で声を入れて、加工して使いました。わりと怖い感じになっているとは思いました。

—『桜花忍法帖』の音楽を担当するという今回の仕事を振り返ってみると?
坂部やりがいがあり、とても楽しかったです。一曲が長いのは辛かったですが(笑)。どの曲も120秒以上ある作品というのは初めてでした。全曲足すと2時間以上になりますからね。ただ、最初にお話したように「和」っぽいものが合っていると自分で感じていたということもあって、入り込むことができた、というところが楽しかったんだと思います。

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