スペシャル

「バジリスク ~桜花忍法帖~」リレーインタビュー第8回
皮膚坊役 浜田賢二

―皮膚坊の第一印象は覚えていますか?
浜田イラストを見て、すごく演りにくそうなキャラクターだと思いました。一応、お坊さんとのことでしたが、腹にいろいろ抱えてそうで何を考えているのかわからない、思っていることを表に出さない感じがしたんです。やっぱり演じる上では、何を考えているのかわかったほうが演りやすいので、これは手強そうだぞと思いました。

―実際の収録ではどのようなディレクションがありましたか?
浜田キャラクターとしては飄々とした感じにしてほしいと言われました。あとは会話の中ではっきり受け答えをすると、そこまではっきり喋らなくて大丈夫です、と。天海からの命を八郎たちに伝えるという大事な役割があるんですけど、どうにでも捉えられるようなニュアンスを出してほしい、ということだったんでしょうね。相手に「ああ、そうか」、「いや、そうじゃない」とわかりやすく判断させるのではなく、「こいつは一体何を言っているんだ」と一度考えさせるような話し方にしてほしかったんだろうなと。

—皮膚坊がそういう話し方をすると考えた理由はなんでしょうか?
浜田八郎たちからすれば、天海なんてもっとも信用ならない奴なわけですよね。言われたことを普通に伝えようとしたら、確実に拒絶されてしまう。それに、天海からの命を受けた偉い人という態度を出せば、高圧的な奴だと余計な波風を立ててしまうかもしれない。だったら、多少柔らかくて丁寧なほうがいいし、むしろ掴みどころがなさすぎてイラっとさせるくらいのほうがいいと思うんです。どんな形であれ印象に残れば、「何者なんだ」って意識を向けてくれる状態になりますからね。たぶん皮膚坊はそれを理解しているので、揉み手をしてお願いするような物腰で、どこか曖昧な感じの話し方をするんだろうなと考えました。

—それはある意味、演じる上でも捉えどころがないということですよね。
浜田そうですね。すごく難しいキャラクターです(苦笑)。一応、天海の下についているという立ち位置なので、天海の目指す天下泰平というものに対して賛同しているんだとは思うんですが、それだけではないというニュアンスもあるので、僕自身も中盤くらいまでは探り探りの状態でした。伊賀も甲賀も自分たちはどうしていきたいかという明確な考えがありますし、成尋衆も成尋の目指すものに従っている。その中で、皮膚坊お前は一体何を求めているんだって(笑)。こっちも煙に巻かれるような状態になります。

—でも、その掴みどころのなさが魅力でもありますよね。
浜田確かに一視聴者として皮膚坊を見ると、こいつは一体何を考えているんだろうという、ミステリアスだからこその魅力がありますね。ただ、物語でも掴みどころがなく、実際に演じていても掴みどころがなかなかないとなると大変です(笑)。いいことを言っているようで実はそうでもなかったり、悪いようなことを言っているけれど実は正しいことを言っていたり。そのさじ加減がカギになるキャラクターですね。

—しかも、それほど多くはないセリフの中で表現しないといけないわけですよね?
浜田そうなんです。そもそもこの作品自体、それほどセリフが多いわけではないので、一つ一つの言葉に意味が集約するんですよね。こんなことを言うと怒られるかもしれないですが、それってすごく怖いことなんです。あまり説明せず、画で見せるシーンも多いので、セリフが入ることでシーンの転換や空気が変わったことがより強調される。だからこそ自分の表現一つで、今までのストーリーが違う解釈をされてしまうんじゃないかって。この緊張感は『バジリスク』ならではですね。

—これまで演じられてきて、皮膚坊を理解する上でのとっかかりのようなものは見つかりましたか?
浜田僕個人の解釈ですが、忠長の存在に何か思うところがあるんじゃないかなという気がしています。戻らないなら殺せという命を受けていますし、実際そのつもりではあると思うんです。でも、なるべくなら避けたい……そんなニュアンスを込めて演じました。忠長を「腐っても鯛」なんて言っていますけど、もう少し寄り添おうという気持ちはあるような気がしますね。

—第16話では滑婆を口説くようなシーンもありました。あのシーンはどう解釈しましたか?
浜田あれこそが天海の考えている天下泰平とはちょっと違う、皮膚坊なりの天下泰平というか、もっと個人に寄せたところでの未来のビジョンなのかなと感じました。成尋との戦いの先にある平和な世の中を見据えての発言なのか、それとも辿り着かないからこその発言なのかは置いておいて、いろんな解釈ができると思うんです。自分に発破を掛けただけのようにも見えるし、たんに息抜きをして今を楽しもうとしているようにも見える。むしろ、いい女を本気で口説こうとしていた可能性だってある。きっと、そういうことを言えるというのは、厳しい状況の中でも楽しみを見つけられる余裕があり、多少なりとも自分の未来というものを考えられるからだと思うんです。意外と、あの時代にあって現代風の考え方をしている人なのかもしれないですね。

—忍たちの日常を見てきて、そういう考えになったのでしょうか?
浜田茶屋での生活はあくまでもかりそめの姿ですけどね。ただ、涙たちもこのままの生活が続けばということを話していましたが、そういう感覚が皮膚坊の中にもあったかもしれないですね。好きな女と一緒に商売したり、家庭を持ったり。そんな夢を見るけれど、やっぱりそうじゃない人生が待っている。でも、そういうことを想像するのもいいじゃないか、そんなふうにも解釈できると思います。

—アフレコ現場にはベテランの方から新人の方までさまざまな役者さんが勢揃いされていますが、浜田さんから見た現場の雰囲気はいかがですか?
浜田役者としてとても嬉しい現場ですね。特に土師(孝也)さんが素敵な方で。キャリアも長く、さまざまな作品に携わられている方なので、現場でいろんなお話をしてくださるんです。麦人さんもそうですが、時代物などを経験されたベテランの方とご一緒できる機会ってとても貴重ですし、その現場に参加できているという楽しさはありますね。

—この作品ならではだなという収録のエピソードはありますか?
浜田息のアドリブがほとんどないことですね。いわゆるバトルものの作品だと、走ったり、戦ったりするときに動きをイメージして「ハッ!」とか「ふん!」とか、息のアドリブを入れるんですけど、この現場だとそれは考えないでくださいと言われるんです。たとえば、走っていても息が切れない感じにしてほしいと。それは、忍というものが強いからなんですよね。ほかの作品だと本当に強いキャラクターに限り息を入れないことはあるんですが、戦闘が激化する後半まではほとんどの忍が息のアドリブを入れていないはずです。なかなか新鮮な経験でしたし、今までは息のアドリブがあったからこそ、セリフで動きを表現できていたんだなと改めて勉強になりました。

—では最後に、第17話以降の見どころについて聞かせていただけますか。
浜田成尋衆というちょっと次元の違う忍術……いや、忍術とかそういうレベルじゃない能力を持つ集団に八郎たちがどんな戦い方をするのか、ぜひ楽しみにしていただきたいですね。皮膚坊もなんだかんだ協力していくので、彼がどんな戦いを見せるのかにも注目していただけたら。あとは先ほども話したとおり、皮膚坊は忠長に何か思うところもあるような気がしているので、忠長とのやりとりも見ていただきたいです。

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